【M&Aインタビュー】事業売却を決断した経営者の苦悩と葛藤、譲れない想いとは

今回お話を伺ったのは、音響メーカーを経営されているA社長。ある経緯から異業種であるボディケア事業を買収。もともと赤字の事業ではありましたが、買収後、ボディケア事業の回復は見込めず、負債を抱え赤字を計上する状態に。事業の選択と集中のため、廃業も視野に入れつつも、最終的には「事業譲渡」を選びました。譲渡にこだわった背景には、A社長の知られざる想いがありました。譲渡に際して譲れない軸、売却時の葛藤など、経営者の想いと苦悩が見え隠れするM&A事例です。

異業種の事業経営、
立ちはだかる「マネジメント」の壁

ーボディケア事業を始めてから、今回の事業譲渡に至るまでの経緯を教えてください。

1年半ぐらい前に、株式譲渡という形でボディケアの会社を受け継ぎました。わたしたちの本業は別のところにあり(別会社)、ボディケア事業は異業種だったので、不安もありましたが、取引先も安定していましたし、いくつか増える見込みもあったのでトップラインが上がれば利益も出てくるだろうと。

ーしかし、実際は難しくなってしまった

マネジメントの問題ですね。さきほども話しましたが、ボディケア事業は異業種で得意分野でもない。本業があるからわたしが付きっ切りでみるわけにもいかない。結局、人が辞めてしまったり現場がうまく回らなくなってしまった。また、同時期に業界に対してネガティブイメージが流れるような事件もあり、トップラインが激減しました。

決算を迎える頃には業績悪化が顕著になりました。現場のことがよくわからない、時間も十分にさけない自分がこのままやるよりも、業界のプロに任せたほうがうまくいくだろうと。

事業売却の貴重な経験をお話くださったA社長

どうしても守りたかったのは、
努めてくれた従業員達

ー当初は、廃業を考えたりもしましたか?

もちろん。有利子負債も多くあるし、通期でも赤字。売れるかどうかも分からなかった。

でも、廃業を避けたかったのは、やはり従業員ですよね。毎日一生懸命頑張ってくれてる従業員の雇用だけは守りたかった。赤字を食い止めるためにも一刻も早く、そして従業員の雇用を引き継げる、ということを前提に買手となる企業を探してもらいました。

結果、短期間で企業評価は分からないものの、従業員を引き継ぐ、と力強くいってくれたところを紹介いただいた。もちろん従業員の意向もあるから最終的にどうなるかは分からないけど、人や取引先を引き継ぎたい、と言ってくれた企業にお任せした。

社内広報から事業譲渡まで、
毎日が葛藤の連続

ー従業員への広報はどのような形でおこなったのでしょう?

みんなには通知文を出して、経営的な背景から、このような選択肢をしたということを理解してもらいました。ただ、広報から譲渡までの期間は10日程度で、広報当日に個人個人の具体的な雇用条件等を提示できたわけではありませんから、従業員も不安です。約40名個人個人にそれぞれの想いがありますから、譲渡までの短い期間で一気に向き合うことになりました。この期間は大変でしたね。

ただ、意外だったのは、これまで従業員に会社全体の数字を特段説明することもなかったので、びっくりした様子で、むしろ「そうだったんだ・・・」と。

事業譲渡に至る背景については、すんなり受け入れてくれた印象がありますね。経営数字や資金繰り、その裏で社長がどう動いているかは見えづらいですからね・・・見せられないですよね。

ただ、みんなが状態を分かってないからこそ、従業員にとっては、「寝耳に水」の発表になってしまった。会社の数字・実状をある程度共有しておいたほうがよかったのかな、と思います。一方で、共有することで変に不安を煽るだけになってしまうのではないか、とも思いますし、ここは答えが分からないです。

経営者として、想うこと

ー振り返ってみて、何か反省などはありますか?

経営的な革新が起こせなかった。

本来は最初に買収した際にやることだったのだと思います。自分が買収したタイミングで、従業員が辞めるいうのが一番嫌だった。変化させたら従業員に不満が生まれるのではないか、ということを恐れましたね。そういう意味では、損益の悪化はある意味、初期投資と同等に考えていました。

今後については、事業譲渡をしたものの、会社としては継続しているので事業をほかに作って育てていく。ある意味、イチから始めるわけですが、負債もありますし、今回の失敗も活かしながら築いていこうと思います。

取材・インタビュアー:M&A通信・事業承継通信社/若村 雄介・柳 隆之

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