やみくもに行動しても、理想的な会社売却を実現することはできません。また、どの程度の期間がかかるのか事前に把握すること大切です。予想よりも長引くことで状況が変わり、会社売却においてトラブルが起こる可能性があるからです。
ここでは、会社売却に必要な準備と完了までにかかる期間について詳しく解説していきます。
M&Aを始めるまでの準備とステップ
会社売却を始める前に、様々な準備が必要です。単なる事務的な準備だけではなく、会社売却の目的の明確化も重要です。では実際に、会社売却を始めるまでの準備とステップを詳しくみていきましょう。
M&Aを行う目的を明確にする
会社売却の目的が明確ではない場合、適切な条件提示ができない可能性があります。会社売却の目的としては、次のような目的が挙げられます。
- 経営者をやめて隠居生活に入りたい
- 健康上の理由で急遽退任が必要となった
- 後継者不在のため会社を引き継げる人を探したい
- 廃業したいが従業員に迷惑をかけたくない
- 経営のプレッシャーから解放されたい
このような目的を踏まえ、どのような条件を提示すればいいか考えましょう。隠居生活に入りたいのであれば、今後の生活費がどれだけかかるのかを計算し、希望額を満たすだけの売却益を得られるよう準備が必要です。
従業員に迷惑をかけたくないのであれば、罪滅ぼしの意味合いで、従業員の待遇アップを条件にしても良いでしょう。このように、最初に目的を決めることで、M&Aの準備においてミスが起こるリスクを減らせます。
買い手の条件を定める
会社売却の目的を踏まえ、買い手に提示する条件を定めましょう。希望売却額や買い手企業の規模、知名度、従業員の待遇アップの有無などが挙げられます。ただし、希望売却額に関しては、会社の価値を踏まえて定める必要があるため、あくまでも経営者の希望として定めましょう。
より精度の高い希望売却額は、M&A会社に相談した際に査定を受けることで算出できます。
コンプライアンスや労務面の見直し
会社売却の際には、基本合意契約後にデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスでは、専門家が会社の問題点や買収のリスクを探ります。コンプライアンスや労務面の問題が発覚すれば、買収のリスクが高いと判断され、M&Aが不成立になる可能性が高まるのです。
そのため、コンプライアンスや労務面をチェックし、問題があれば是正しなければなりません。給料や賞与、退職金の未払い、不当な減給などがないか確認しましょう。また、未払いがあると、会社の経費が正しく計算されず、実際よりも純利益が多くなります。デューデリジェンスの実施によって未払いが発覚し、真の純利益がわかることで、これまでの交渉が白紙に戻る可能性があります。
また、未払い問題は訴訟のリスクを高めます。訴訟されているかどうかも買収の判断材料になるため、普段からコンプライアンスを守り、適切な対応をしておくことが大切です。
不透明な取引を整理する
会社内の管理体制が十分に整っていない場合、不透明な取引が行われている恐れがあります。不透明な取引は、現場の管理者だけではなく、さらに上の管理者も一緒にチェックしなければ見つけることが困難です。現場の管理者が隠ぺいするリスクもあります。
会社売却の実行前に不透明な取引がないか調べ、整理しましょう。また、反社会的勢力との取引がある場合は、早急に解決する必要があります。多くの企業は、反社会的勢力と取引する会社を譲受しようとは思いません。
M&A会社に相談する
会社売却を実行に移しても問題ない状態になったら、次はM&A会社に相談しましょう。相談することで、会社売却に関する不明点や疑問点を解消できます。また、M&Aを実行するべきタイミングかどうかもアドバイスを得られるため、結果的により多くの売却益を得られます。
業界の動向や会社売却の傾向などを踏まえ、どれぐらいの売却益を得られるのか、どのようなM&Aになるのかなど、様々な情報を得ましょう。
M&A会社と契約する
「M&A仲介会社」または「M&Aアドバイザー会社」と契約することで、会社売却のサポートを受けられます。
M&A仲介会社は、買い手と売り手の間に立ち、円滑な取引をサポートします。買い手の選定のみ行う場合もあれば、契約に関するアドバイスまで行う場合もあります。M&Aを進めるにあたり、問題が起きたときのアドバイスも受けられることが多く、売却失敗のリスクを抑えられるのです。
M&Aアドバイザー会社は、売り手の代理として買い手と交渉してくれます。能力が高い担当者に任せることで、会社の魅力を買い手に十分に伝えられ、高額で売却できるようになります。また、会社売却の手続きに関わる税理士や公認会計士、弁護士などと契約しており、トータルサポートを受けられることが特徴です。
M&Aの必要書類を集める
M&A会社と契約し、会社売却を進めることが決定したら、M&Aに関わる必要書類を集めましょう。書類の不備は、買い手の心象を悪くするため、交渉が始まるまでに確実に用意しておくことが大切です。どのような資料が必要か詳しくご紹介します。
会社の魅力を示す資料やデータ
自社を買収するメリットを示すためには、自社製品やサービスのアピールが必要です。単なるアピールではなく、メリットを示すために資料やデータを用意しましょう。例えば、過去に話題になったときの新聞やニュース記事などがあります。
独自にアンケートをとることも一つの手段ですが、多くの人からアンケートをとることが重要です。その業界において、顧客になり得る人が10万人いるのに、100人からしかアンケートをとっていないようでは、信頼性が高いデータとは言えません。
資料やデータを提示するときは、「かえって自社の製品やサービスの評価を落とすことにならないか」を十分に考慮しましょう。
会社の基本情報がわかる資料
定款や株式名簿、会社案内など会社の基本情報がわかる資料を集めてください。買い手は、会社のウェブサイトを見て基本情報を収集しますが、それだけでは不十分のため、売り手が資料を提供する必要があります。
財務に関する資料
決算書や税務申告書、納税証明書、月次試算表、直近3期分の勘定科目内訳書など財務に関する資料を集めましょう。会社がどれだけの利益を挙げているかは、譲受の可否を決める重要な項目です。漏れのないように用意しましょう。
人事に関する資料
本社や支店、子会社、関連会社の情報がわかる組織図、役員や部門長の経歴書、従業員の氏名や年齢、勤続年数、役職、給与などがわかる名簿、就業規則などを集めましょう。M&Aにおいて、従業員も立派な資産のため、譲受の可否の判断材料となります。
各種契約関連の資料
会社売却では、取引先や保険、リースなどの契約も引継ぎます。該当の契約に関連する資料を用意しましょう。また、事業売却の場合は許認可などを引き継げませんが、株式売却であれば引き継げるので、必要な場合は「許認可などの写し」を用意してください。
M&Aにかかる期間
M&Aにかかる期間は、約3ヶ月~2年です。ただし、会社の規模や条件達成の難易度、交渉の進み具合などで大きく変動します。そのため、あくまでも目安として覚えておきましょう。また、2年も経つと会社の状況が大きく変わり、当初よりも高値で売却できる可能性もあります。逆に、収益が低迷し、会社売却が成立しなくなることも予想されます。
そのため、どの程度の期間を目標にするか、よく考えることが大切です。短期決戦に臨む場合は、買い手が譲受を決断しやすいように、十分な資料やデータを用意しておきましょう。今、譲受しなければ損をすると思わせることがポイントです。
むやみに長引かせないよう注意
会社売却に時間がかかると、モチベーションが下がる可能性があります。「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、会社売却の意思を固めたら、できるだけ早く行動することが大切です。交渉を急ぐ必要はありませんが、求められた資料やデータはすぐに用意できるようにしておき、少しでも早く契約締結できるよう努めましょう。
長引くと、売り手だけではなく買い手の状況も変わる可能性があります。他に、魅力的な譲受企業が現れ、M&Aが不成立になることも予想されます。
できるだけ早く準備する
スムーズなスケジュール進行のために、できるだけ早く準備することが大切です。用意すべき資料やデータは膨大なため、会社売却の事実を知る一部の役員と協力して集めましょう。また、後継者がいない状況で「健康上の問題」や「経営のプレッシャーから解放されたい」などの理由で会社売却する場合は、廃業ぎりぎりまで耐えるのではなく、早めに会社売却の準備を始めてください。
いつ、経営できなくなるほどに健康状態が悪化するかわかりません。また、経営のプレッシャーに押しつぶされそうな状態では、経営者として実力を発揮できず、会社の経営を悪化させる恐れがあります。会社は、価値が高いときこそ高く売却できるため、状況が悪くなる前にM&Aを実行に移しましょう。
まとめ
M&Aの際には、最初に目的を決めることが大切です。その目的を踏まえ、目標や条件を定めましょう。順序よく準備を進めることでで、理想的なM&Aが可能になります。その他、資料やデータ、契約関連の書類などの準備も怠らないようにしましょう。契約締結までの期間が長引かないように、しっかり準備することが大切です。