M&A後のオーナーの退職金はいくら?どれぐらい税金が引かれる?

M&Aでオーナーが会社から退職した場合、退職金を受け取れます。M&Aの場合と親族や社員に承継した場合とでは、退職金額の決まり方に違いはあるのでしょうか。また、退職金に対して、どれだけの税金が加算されるのか確認しておきましょう。ここでは、M&A後のオーナーの退職金の決め方や税金、節税効果についてわかりやすく解説していきます。

オーナーの退職金額の決まり方

オーナーの退職金額は、予め就業規則で決められている金額となります。また、会社から支払われる形となるため、退職金額に応じて株式価値が減少します。そのため、退職金支給後に残った資産を踏まえ、M&Aにおける株式価値が決定されます。 なお、「オーナーと役員」と「社員」では、退職金額の決め方が異なります。法人税法では、高すぎる退職金は損金として算入できないため、法律に基づいた合理的な算出方法が定められているのです。オーナーと役員の退職金は、次のように計算することが一般的です。

退職時の月額報酬×役員に就任してからの勤続年数×功績倍率

功績倍率は、「その人物が会社にどれだけ貢献したか」に基づいて決定します。功績の内容によって増減するうえに、退職金額を決める重要な要素となるため、企業によって退職金額が大きく変動することが特徴です。

月額報酬が400万円で勤続年数が40年、功績倍率が3.0倍の場合は、次の計算式となります。

月額報酬400万円×勤続年数30年×功績倍率3.0=3憶6,000万円

今回は、勤続年数40年で計算しましたが、創業者ではない場合は10~20年程度になると考えられるため、退職金額はもう少し低くなります。

役員退職金の税計算

損金不算入となり、所得税が課せられる場合は、給与所得にかかる税金とは異なる方法で計算します。通常の所得税と退職金の所得税を同様に扱うと、所得税額が非常に高くなるだけではなく、保険料なども高くなるため、このような方法が取られているのです。

退職金にかかる税金は、次のように計算しましょう。

(退職金額-退職所得控除)×50%×税率-控除額

退職所得控除額は、「勤続年数20年以内で40万円×勤続年数」、「勤続年数20年超で(勤続年数-20年)×70万円+800万円」です。また、勤続年数5年以内の場合は、「×50%」が適用されません。

税率と控除額については、以下の表のとおりです。

課税される退職所得 (退職金額-退職所得控除) 税率 控除額
1,000円~194万9,000円 5% 0円
195万円~329万9,000円 10% 9万7,500円
330万円~694万9,000円 20% 42万7,500円
695万円~899万9,000円 23% 63万6,000円
900万円~1,799万9,000円 33% 153万6,000円
1,800万円~3999万9,000円 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

例えば、勤続年数30年で退職金額が3憶8,000万円の場合、以下のような計算式となります。

(退職金3憶8,000万円-退職所得控除1,500万円)×50%×税率45%-控除額479万6,000円=7,732万9,000円

役員退職金額に関するポイントと注意点

役員退職金額を決める際には、売り手だけではなく買い手のメリットも考えることが大切です。買い手のメリットを踏まえることで、交渉を有利に進めやすくなります。また、退職金の支給にまつわる注意点についても確認しておきましょう。

適切に役員退職金を受け取るために押さえておきたいポイントや注意点は次のとおりです。

役員退職金額で買い手の節税効果を高める

役員退職金を高くするほどに、買い手の節税効果が高まります。役員退職金は損金に計上できるため、法人税の節税に繋がるのです。多額の損金を計上できれば、それだけ法人税を大幅に抑えられます。オーナーは会社から去るため、法人税節税のメリットは買い手にあります。

その効果は、退職金額×法人税率で計算できます。例えば、退職金が1億円で、法人税の実効税率が33.6%の場合、節税額は3,360万円です。M&Aで会社や事業を買収しても、買い手にとって節税効果はありませんが、売り手がオーナーの役員退職金を多く用意することで、大きなメリットを得られるのです。

節税効果を高めれば、買い手としても買収に対して意欲的となり、他の条件を承諾してもらいやすくなるでしょう。例えば、高い節税効果を提供する代わりに、社員の待遇改善や馴染みの企業との取引の継続など、オーナーにとってメリットのある条件を提示すれば、買い手と売り手の双方にメリットがある契約となります。

そのまま会社に残る場合は要注意

M&Aでは、必ずしもオーナーが退職するとは限らず、会長や相談役へと役職が変わるだけの場合もあります。M&A後の円滑な経営のために、売り手のオーナーが会社に残ることが少なくないのです。 この場合に注意したいのが、「オーナーからは引退するものの、実質のところ経営に関与する場合は、退職金として支給された現金が退職金と認められない可能性がある」ことです。

退職金として扱うためには、これまでの役割が大きく変わり、実質的に退職したことを認められなければなりません。例えば、常勤役員から非常勤役員への変更、取締役から監査役への変更、役職の変更後の給与が大体50%以上減少した、などが挙げられます。

退職金を損金に算入するための注意点

役員退職金を損金に算入することで、いわゆる会社の経費扱いとなります。しかし、退職金が不当に高額であったり、分割支給を受ける際に適切な手続きを踏まなかったりすると、損金不算入となるのです。 損金不算入となった場合、法人税法上の経費に計上できないため、節税効果を得られません。

退職金を分割支給したい場合は、退職金の総額と支給開始時期、1回あたりの支給額などを議事録で定めておく必要があります。支給時期が不明瞭であるなどした場合、損金不算入とされる可能性があるため注意が必要です。

役員退職金額は慎重に決めることが大切

役員退職金を決めるときは、予め「退任後の生活費」、「新たな事業への資金投入」など使い道を決めておくことが大切です。退任の年齢、保有資産、収入源などを踏まえ、悠々自適の隠居生活に入れるだけの退職金を得たいところでしょう。 また、新たに事業を始めることを考えている場合は、スムーズなスタートを切るために必要な金額を算出します。役員退職金は、より良い余生を過ごすための資金となるため、慎重に決めましょう。

まとめ

オーナーの役員退職金を決める際には、買い手への節税効果、生活費、新たな事業への資金投入などを考慮することが大切です。退職金額は多いほどに売り手と買い手のメリットが高まりますが、会社から支給するため、高額すぎると会社の財産を大きく減らしてしまいます。 退職金にかかる所得税は比較的安くなっているため、つい高額な退職金額に設定しがちです。買い手と売り手の双方のメリットが大きくなるように、専門家に相談しつつ役員退職金額を決めましょう。

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