M&A実行後にかかる税金は?株式譲渡と事業譲渡で異なる!

M&Aの実行後には、所得税や住民税、法人税など様々な税金がかかります。ただし、売り手が個人か法人か、株式譲渡か事業譲渡かなど、M&Aのスキームや条件でかかる税金が異なるため、事前に十分な確認が必要です。 M&A後にかかる税金をしっかりと考慮せずに売却益を配分してしまうと、実際の税額が想定より高かった場合に、納税できなくなる可能性があります。

ここでは、M&A実行後にかかる税金について、わかりやすく解説していきます。

株式譲渡でかかる税金

株式譲渡は、株式を第三者に売却することで、会社の経営権を譲渡する方法です。株式の保有数で与えられる権利が変わり、過半数以上もの株式を保有できれば、会社における重要事項を決定できるようになります。

3分の2以上もの保有数となれば、会社売却や買収、解散などの決定権を与えられます。そのため、株式を移転することで経営権を譲渡できるのです。それでは、株式譲渡でかかる税金について、詳しくみていきましょう。

所得税と住民税

経営者が保有する株式を譲渡する場合には、「売却によって得た利益」に応じた所得税と住民税がかかります。多くの中小企業は、その会社の経営者が株式を保有しているため、このケースに該当するでしょう。 売却によって得た利益とは、「売却額」のことではなく、「譲渡所得」のことです。譲渡所得は、売却によって得た金額から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いた額になります。

取得費とは、売却した会社の設立にかかった株式取得費用のことで、購入費や手数料、名義書換料などが該当します。正式な取得費を算出したいところですが、把握できていない企業もあるため、売却額の5%を取得費として取り扱えるようになっています。

譲渡費用とは、M&Aを行う際にかかった費用のことです。M&A仲介会社を利用する場合は、着手金や中間金、月額報酬、成功報酬、実費などがかかりますが、これらは譲渡費用に該当します。

上記を踏まえ、所得税と住民税は次のように算出します。

  • 譲渡所得=売却額-取得費-譲渡費用
  • 所得税=譲渡所得×15.315%(所得税率)
  • 住民税=譲渡所得×5%(住民税率)

所得税は、毎年3月15日までに確定申告し、納税しなければなりません。住民税は、該当年度の6月あたりに納付書が送付され、納税することになります。それぞれ納税のタイミングが異なるため、確実に納税できるように、あらかじめ計画と納税資金の準備をしておくことが大切です。

法人税

ある会社が別の会社の株式を譲渡する際には、法人税がかかります。複数の会社を経営しているケースでなければ、M&Aの際には法人税は関係ないと覚えておきましょう。法人税は、株式譲渡によって得た利益から諸経費を差し引いた「譲渡益」に対して課税されます。

譲渡益は個人のケースの譲渡所得と同じものであり、算出方法も同じです。呼び方が異なるだけですが、区別するために覚えておきましょう。 また、譲渡益の算出に必要な取得費は、正式な額を算出しなければなりません。売却額の5%として計算することはできないため、取得費を割り出せるように必要な資料を探しておきましょう。

法人税は、15~23.4%の範囲で変動し、赤字企業の場合は0%となります。したがって、法人税は次のように算出します。

  • 譲渡益=売却額-取得費-譲渡費用

譲渡益を算出し、次のように法人税を算出します。

(2)法人税額=譲渡益×法人税率

このように、個人株主と法人株主でかかる税金が異なるため注意しましょう。

事業譲渡でかかる税金

事業譲渡では、会社全体ではなく、事業や財産を指定して第三者に売却できます。経営権を維持できるため、不採算事業の売却や企業再生を目的としている場合に選ぶといいでしょう。事業譲渡にかかる税金について、詳しくご紹介します。

法人税

事業譲渡の場合は、基本的に会社に税金が課税されるため、所得税や住民税ではなく法人税がかかります。法人税の算出方法は、株式譲渡の場合と同じく、次のようになっています。

(1)譲渡益=売却額-取得費-譲渡費用

譲渡益を算出し、次のように法人税を算出します。

  • 法人税額=譲渡益×法人税率

事業の価値が高くなると売却額も高くなり、結果として多額の法人税がかかります。株式譲渡の方が税負担を軽減できるケースもあるため、どちらを選ぶか慎重に検討することが大切です。

消費税

事業譲渡の場合、設備や店舗などの資産を売却するため、消費税もかかります。消費税がかかる課税資産と、かからない非課税財産があるので、確認していきましょう。

(1)課税 資産

・営業権

営業権は「のれん代」とも呼ばれ、ブランドや取引関係など決算書に記載されない価値を指しますが、一般的に営業利益か経常利益の3~5年分と定めます。

・土地以外の有形固定資産

有形固定資産は、店舗や工場、本社の建物、機械設備などを指します。

・無形固定資産

無形固定資産は、商標権や特許権、借地権、ソフトウェアなど形がない資産を指します。

・棚卸資産

棚卸資産は、販売目的で保有している商品や原材料などのことで、いわゆる在庫のことを指します。

(2)非課税資産

株式や債券、小切手などの有価証券、売掛金などの債券、土地などが該当します。

上記を踏まえ、消費税の算出方法は次のようになります。

消費税=(売却額-非課税資産)×消費税率

会社分割でかかる税金

会社分割は、展開している事業の一部または全てを第三者に売却する方法です。事業譲渡と似ていますが、利益を得ることではなく組織再編を目的としています。また、現金ではなく株式を譲渡の対価とするケースが多く、費用をかけずに実行できます。

会社分割では、事業譲渡とは異なり、消費税がかかりません。これは、資産を包括的に承継するためです。その他の税金に関しては、適格分割か非適格分割かで異なります。

適格分割の場合は、基本的に税金が発生しませんが、非適格分割では税金が発生します。適格分割に当てはまるのは、M&Aの実施後に株主構成や保有資産がほとんど変化しないケースです。 ただ、適格分割かどうか判断するには、複雑な要件を整理しなければならないため、専門家のサポートが欠かせません。

不動産取得税や登録免許税がかかることも

会社分割の際には、不動産取得税や登録免許税がかかる場合があります。適格分割に該当する場合は不要ですが、非適格分割において、グループ企業内で不動産を移転する場合は、不動産取得税や登録免許税がかかります。

不動産取得税は不動産の固定資産評価額の4%となります。

登録免許税は法人登記と不動産登記の際に納税が必要で、それぞれの計算式は次のとおりです。

(1)法人登記

分割会社・・・3万円

新設会社・・・資本金額の1,000分の7(株式会社で、15万円未満に相当する場合は1回の申請につき15万円となります)

(2)不動産登記

不動産価額の1,000分の20

まとめ

M&Aの実行後には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割などの手法に応じた税金が発生します。株式譲渡は、他の手法と比べて税金面で優遇されており、予め算出しやすくなっています。そのため、税金面も踏まえたうえで、M&Aの手法を選ぶことが大切です。納税トラブルを防ぐために、M&A実行後の税金を事前に確認し、売却益の配分を決めましょう。

【参考URL】

関連記事

  1. M&A後のオーナーの退職金はいくら?どれぐらい税金が引かれる?

  2. M&Aは誰頼み?事業売却を相談するなら、あの人に

  3. M&Aってすぐできる?必要な準備、かかる期間を教えます。

  4. 【M&A初心者必見】着手金や成果報酬、かかるお金っていくらくらい?

  5. M&Aの売り手側のメリットとデメリットは?リスクを抑えた契約を!

  6. あなたの会社はいくら?M&Aにおける企業価値の算定方法